18年4月/種子法廃止

雪のないまま春を迎え、田植え準備スタートです。

有機の肥料用のクズ大豆の粉砕作業-我が農舎自慢の粉砕装置。半世紀以上前の骨董粉砕機を7千円で買って来て製作した、手作り装置。年に1度使うだけだから、予算は掛けられない。

全国的に雪の多かったこの冬でしたが、当地は結局ほとんど雪のないまま春を迎えました。
冬の間は、我が村の倉庫団地には我が家のような「産直」を行っている農家の人以外には、人影もなくひっそりしていました。

でも、種蒔き準備の時期を迎えて、春休みに入った子供の声も混じって急に賑やかになってきました。
「春の足音が聞こえる」ということを実感しているように思えます。

我が家では、種籾の準備を前に、隣町の農協から昨年秋に収穫された大豆の選別クズ豆を譲っていただき、これを今年の有機あきたこまちの肥料として、田植え前に散布するため、5トン余りのクズ豆の粉砕作業に取り掛かりました。

有機栽培では、農薬はもとより、化学肥料も一切使いませんが、有機肥料の主な原料は、米ヌカや菜種の油を絞った残りカス、動物性の原料では、加工場から出る魚のクズ、鶉や鶏の糞等々を原料に醗酵させた肥料などを活用します。

ところが、最近は魚関係では、漁獲量の急激な減少などで、有機肥料用に回されるものが減り、入手が難しくなると共に、価格も以前に比べると倍以上に高くなってきました。
また、家禽の糞などは、抗生物質などが使われていない原料を見つけることが年々難しくなって来ています。

そこで、このような豆のクズなどは、少々値段は高いですが、非常に貴重で有難い原料になる訳です。でも、豆クズは、そのまま田圃に散布すると、水に浮き、大豆が芽を出したり、カラスなど野鳥が田植え直後の苗を痛めます。そこで事前に粉砕作業がいるのです。

種子法廃止は、日本の米作りの将来が心配!

我が家の庭の福寿草・満開-「山葵を摘んで来て」と男鹿の山に行く友人に頼んだら「山葵がなかった。」と代わりに届いた福寿草。以来毎年、雪解け後4月中頃まで咲き誇る。

昨年春の通常国会では、イネ、ムギ、大豆など主要食糧の種子だけの法制度である「種子法」の廃止法案がいとも簡単あっけなく通過しました。
この法律が廃止されても、当面は大きな変化はありませんが、将来的には深刻な影響が出ると心配されます。

さて、成立した廃止法は一年後であるこの4月に施行される時期を迎え、年明けから新聞や雑誌で種子法関連の記事や情報が散見されるようになってきました。
しかし、これらには廃法問題を理解するに必要な育種についての予備知識が提供されていないのがほとんどです。

それどころか、記者自身がこの予備知識を持たないまま解説して「種子法が廃止されれば、人体被害や環境破壊を及ぼす遺伝子組み換え作物が氾濫する」だけの短絡的な報道に止まっていることが多いように感じます。
そこで品種=育種についての予備知識・・・これは実に単純簡単なことですが、これを先ずお伝えし、その後、廃止法案が国会に上程された経緯の分析や、廃法が及ぼす影響などについて次号に引き継いで取り上げたいと思います。

皆さん、美味しいメロンを食べた時、この種を庭で育てたいと思うことがありませんか。さて、翌春、種を蒔き、心をこめて育て、夏に立派なメロンが無事出来ました。ナイフで切りスプーンで口に運んだ。・・・味はどうなると思いますか。期待は見事に裏切られて、甘味も肉質もキューリ並の鬼子のようなメロンです。この訳は、F1=一代雑種だからなのです。

美味しかった昨年夏のメロンは、その親の世代の雄しべの花粉を、メス花に受粉させてできた種子を蒔き育てて結実したF1種のメロンです。一方、今年のメロンは、昨年のメロンのオス花粉とメス花の「自家採種」の種子ですから、当然、別物(別品種)なのです。

家庭菜園を行う方は、伝統野菜以外の野菜の種や苗は、毎年「購入するものだ」ということは知っていても、このような理由まではご存じない方が多いのではないかと思います。
ところが、種子法が扱ってきたイネなどの作物は、自家採種でも、親の形質をほぼ継承する固定性が高い性質がある品種です。(完全継承ではなく、長年の間には徐々に変質しますが・・・)

さて、この違いが色々の面に影響が及び、種子法廃止の是非に関わることになります。
親の形質を継承できないF1やハイブリッド、遺伝子組み換え系の品種は、自家採種は出来なくて、毎年種子を購入する必要があります。野菜や花などの品種は極く少数の在来品種を除き、ほとんどがF1系の品種ですから、これに該当します。
従って、これらの作物や品種は、新品種開発や種苗生産のビジネス化が可能です。
現にアメリカのレタスの種子の多くを日本のタキイ種苗が供給していることは有名です。

一方でイネなどは、遺伝子組み換えやハイブリッド系品種でない限り、その種子の値段が高ければ、新しい品種の栽培を始めようとする生産者は誰もが、最初の一回だけ、それもほんの一握りの種子だけの購入に留めます。
そして、その一握りの種子を蒔き、自家採種、自家増殖しますから、種子の商業生産=ビジネス化は無理なのです。

育種の原理=育種の予備知識などと冒頭に述べましたが、たったこれだけの単純なことなのです。でも、ここを押さえておかなくては「種子法問題」の本質に辿り着けないのです。 また、種子法廃止は、政府の規制緩和委員会が発端だったようですが、恐ろしいことに、ここの委員も育種についての知見がなく、誤解のまま廃法の失敗に向かったと思われます。
以下次号で色々分析したことをご報告したいと思います。