17年3月/三上さんのムツの話
北国・秋田の春も間近、下旬には種籾準備が始まります。【 PDF版 】
2月は、山陰や関西で記録的な降雪があったと報じられていますが、雪国の当地秋田は、昨年、一昨年よりは雪が多いものの、暖冬気味のまま2月も終わろうとしています。
この暖冬のお陰で、今までなら真冬の凍てついた作業場での機械の整備や改良製作など鉄を扱う作業は、石油バーナーを1時間程度は燃やしてからでないと作業を始められなかったのですが、この冬は、暖房なしで快適に作業がこなせました。
また、当地では、1月、2月は、バーナーで精米機やコンプレッサーを30分余り暖めないと精米装置が作動ミスを起しますが、今年は、そのような寒い朝はほとんどなく、暖房用灯油は、寒い年の半分以下の消費で済んでいるようです。
ところで、いよいよ3月下旬には温湯消毒など今年の米作りがスタートしますが、先日TVで猫の話題が幾つも取り上げられてました。よく聞いてみると2月22日は、2・2・2でニャン、ニャン、ニャンの語呂合わせの「猫の日」だということを始めて知りました。
我が農舎の精米倉庫にも、メス猫のミー子がネズミ番として活躍してくれています。
以前は、専門業者に年間数十万円も払ってネズミ駆除を委託していたのですが、ネズミの害は一向に減りません。
そこで、ペットショップを訪ねると「雑種の猫はおりません」とのこと。種々情報を集めた末に、愛猫NPO団体が行っている「猫の無料斡旋交換」の会場に辿りつきました。
「どんな猫がご希望ですか」『ネズミ捕りが上手な猫なら何でもいいです』・・・この返答に相手は絶句。そしてしばらくして「どこで飼われる予定ですか」『勿論、倉庫ですよ。米蔵です』・・・相手は怒りあらわに「猫は部屋で飼って頂かないと困ります。ネズミ捕りに使うような猫は、ここにはおりません」・・・私もビックリ!絶句。
知らない間に世の中変わってしまっていたのです。
その翌春、隣人から生まれて3ヶ月のミー子を譲って頂きました。ネズミを捕らなくても、倉庫のネズミはほとんどいなくなりました。猫の日の翌日、ミー子には、日頃の感謝をこめ私が普段食べるサンマ缶よりも高価な缶詰をプレゼントしました。
リンゴ栽培技術に培われた弘前城の桜の強剪定、そして三上さんのムツの話
我が家の庭には40年のソメイヨシノがあります。
毎年ゴールデンウイーク前には、花言葉の「純潔・独立高貴、清純」そのもの、華やかに咲き誇ってきました。
しかし、巨木になっており、昨秋には「送電線に絡む」と、電力会社から枝詰めを頼まれました。
「桜切るバカ。梅切らぬバカ」の諺のように、梅は剪定することで開花が促進され実がよくなりますが、ソメイヨシノは腕より太い幹や枝を剪定すると、腐朽菌に侵され、木を台無しにすると聞きます。
また、ソメイヨシノは、3~40年頃から樹勢が衰え始め、寿命が60年程度と言われていますが、我が家の桜も、かってのように盛り上がるように咲く勢いが無くなってきたようです。
私の経験では、東北の桜といえば弘前城公園の夜桜が一番ですが、ここには、樹齢100年を超える桜が立派に咲ています。弘前の特産リンゴ栽培で培われた剪定技術が駆使され「強剪定することで逆に樹を若返らせる技」の成果だと聞き、植物を栽培する私は大いに納得しました。
強剪定の極意は、冬に切ること。切り口の傷の手当を的確に行うこと。の2点。
先日我が庭の桜に試しました。樹の若返りは成功するだろうか。心配と期待が一杯です。
ところで、弘前のリンゴといえば、我が農舎が20年余り前から斡旋してきた「三上さんのグリーンムツ」です。(我が農舎には「ムツ」以外の品種はずっと分けて頂けませんでした。)
非常に残念ですが三上豊勝さんは一昨年暮れにお亡くなりになりました。
三上さんは有機リンゴの草分けで、日本で最初であって、ただ一人、リンゴの有機JASの認定者です。お米の有機栽培も難しいですが、リンゴは、お米の有機の比ではありません。永年作物のリンゴは失敗して樹をダメにすれば、その年だけでなく、回復までに10年15年の歳月が必要です。始めの頃は家計が維持できず家族中苦労の連続だったと聞きます。
今、三上さんのリンゴは、ちょっとやそっとでは手に入らず、販売店では、箱売りはできず、年によっては1個、2個と分けてお得意先に配ると聞きます。
彼は海上自衛隊の航空士として戦闘機に乗っていたのですが、編隊飛行中に野鳥の群れに突っ込み僚機は墜落、自機も野鳥を飲み込み九死に一生を得て、その衝撃から立ち直れず退官し、長男だったことで実家のリンゴ園を継ぎ、リンゴの有機栽培に日本で始めて取り組んだ人物です。
また、数年前、映画にもなった「奇跡のリンゴの木村さん」の実家は三上家で、木村さんは三上さんの実弟です。その木村さんは、兄貴の三上さんや木村さんの周囲の人の間では、お調子者だ。眉唾などとかくの噂があります。奇跡のリンゴはマスコミや出版界、映画界が生んだ虚像のようです。
一方で兄貴の三上さんは、弟と真逆の寡黙、真っ正直でバカがつく程真面目で、金銭的にも社会的にも禁欲そのもの。有機リンゴ一筋の尊敬できる変わり者です。
20年ほど前に、三上さんから「数本しか残っていない「ムツ」を切りたくない。でも、数が少なく安定性もないので、フジなどを出している首都圏のデパートや千疋屋に持ち込めない。」と頼まれて、我が農舎が5Kg箱で300箱前後を毎年斡旋することになったのです。
付き合いを始めて、噂を超える禁欲で真面目かつ無要領な人柄には驚きと尊敬を覚えます。
まさに、有機のリンゴ栽培一筋。実弟の「奇跡のリンゴの木村さん」とは対極の方でした。
このような方でなければ、リンゴの有機を追及することは、とても無理なことだとつくづく思いました。
三上さんがお亡くなりになった後は、奥様とご子息が継がれており、昨秋は無事「ムツ」が届きましたが、今後どうなるかとても心配です。