16年8月/高コスト・低収量のお米作り
無農薬田の除草も稲の生育もほぼ順調です。【 PDF版 】
お米作りを始めとした農業生産は、幾ら頑張ってみても、天候など自然に翻弄されるという悲しい宿命を持っています。
こうした中で、昨年末から春先まで、北国の秋田に雪がほとんど降らず、春先も早くから暖かく、また、5月に当地より北の北海道でも30℃を超す暑い日が出るなどの異常な天候の今年でしたので、大変心配していましたが、その後大きなアクシデントもなく経過し、今年の稲は今のところすこぶる順調に育ってくれています。
先月にもご紹介した草取りの助っ人のマガモ君たちは、期待をはるかに超える成果を上げ生まれ故郷の山形県・船形町のカモ農場に帰りました。
今年除草の効果が良かった原因は、今までよりも1週間ほど早く生まれた大き目のマガモを放鳥したこと。放鳥後10日余りの間好天に恵まれ気温が高かったことの2つによって、カモ君たちの活動が活発だった点。また、加えてカモの管理小屋の対角線上に、もう1ヶ所の餌場を設ける工夫により、カモ君たちが管理小屋近くにたむろせずに田んぼ一面を泳ぎ回ってくれたことと、雑草の根付きを押さえるための自作の除草道具で3日に1度田んぼの表面を攪拌したことが効果の向上につながったようです。
でも、活動が活発すぎて、稲が踏み倒されたり、浮いたりする被害は例年よりも多かったので、来年は、カモの放鳥時期を稲が十分に活着するのを待つ意味で4,5日遅らせることと、放鳥羽数を2割程度少なくするなどの工夫を試みたいと思っています。、
でも、除草はこれだけでは完全ではありません。今、水を落としている田んぼが乾きかけたお盆過ぎにはパートの女性の応援を得て最後の手取り除草に入ります。
台風などの来ないことを願いながら10月の収穫まで最後の管理に頑張っていきます。
時代に逆行した高コスト・低収量のお米作り
最近の農水省や県の農業指導政策は、規模拡大と多収穫などによるコストの削減化の推進がTPP問題を契機にさらに強く打ち出されてきています。
米生産の場合の「コスト削減」の一番効果的な方法は、農薬と化学肥料の集中的な投入によって、労力を減らし、単位面積当たりの収穫量を増やすことに尽きます。
この数年、私の村の近隣の農家でも、行政や農協のこの呼掛けに応え、農薬と化学肥料の多投入が急速に増え、単位面積当たりの収穫量も年々高まってきています。
安全性や味などの追求を無視したコスト追求の米生産に疑問を抱いていた農家も、全国的なコスト低減・高収量追求の米生産スタイルの広まりで、米の市場供給量が増え米価が急速に下がるという悪循環を呼んだことと、昨今の不景気で安いお米しか売れなくなって、仕方なくコスト追求型の米生産スタイルに飲み込まれる農家が続出し、村の無農薬など有機栽培面積は、10年前の半分に減少し、農薬や化学肥料の使用量が急増しています。
このような最近の農業現場の流れの中で、我が農舎は、相変わらず手間暇かけた多労力、農薬や化学肥料の無投入など高コスト、低収量という時代遅れ・時代に逆行した姿勢のお米作りを行っています。
日本のお米を始めとした農産物も、海外の価格に近づける努力も必要だとは思います。でも、工業原料や家畜の飼料とは違った「食べ物」であるという視点での生産や経営姿勢を失くせば、日本農業の存在価値はまったくなくなると思います。
また、自然に左右される農産物の生産においてのコスト低減・効率化の追求は、鉱工業の生産による「公害」を遥かに超える直接的な環境破壊を招くと共に、元来、原生林を切り拓くことから始まった農業生産は、最大の環境破壊産業であるという宿命がある自覚が農業者には必要です。
しかし、人類にとって食糧生産・農業は必要な産業です。「食べ物・農業生産」を行う場合に大切なことは、自然を征服するという姿勢を捨て、自然と共生し継続した再生産が続けられる経営姿勢が強く求められます。
また、「食べ物」ですから何にも増して人体への安全性に配慮することが必要ですし「美味しい」ということへの追求も大事です。
中段で紹介したコスト低減の追及に疑問を抱く農家が、農薬化学肥料多投生産に飲み込まれた事例のように、生産者の意識が高くとも、消費者の皆さんのエシカルなご支援がなければ、安全で美味しい農産物の生産は成立しないのが現実です。
このエシカル・コンシューマーリズムは、私たち農業だけでなく、どの産業、どの業種に対してもとても大事なものだと思います。
我が農舎が、曲りなりにでも、時代に逆行した多労力・低収量・高コストのお米作りが続けられているのは、我が農舎のお米作りをご支援頂きお食べ下さるエシカルなライフスタイルの皆様のお陰です。