14年6月/エルニーニョとエシカル
今年は好天続きで田植えも快調です。【 PDF版 】
4月に引き続いて5月もほとんど雨がありません。好天のおかげで今年の春作業は快調です。
しかし、晴れの日が多い好天続きだとは言っても、全般的には気温は低めで、急に暑い日があったりするものの、5月の中旬頃まで、朝晩はストーブの助けを借りる日が幾日もありました。
ところで、今年の田植えも例年と同じ頃の5月23日から始めました。
今まででは、我が家が田植えを始める頃には、付近の農家の田植えは8割方終わっているのですが、今年は、田植えを終えた農家はごく僅かのようでした。
この原因は、今年の天候によるものではなく、昨年秋田、青森地方を中心に、今までほとんど被害が出たことがなかった「ハモグリバエ」が大発生して、早く田植えをした田圃は植え直しが必要な田圃が出るほどの被害が出たからです。
春先の病害虫発生予報で「今年もハモグリバエの大発生が予想される。」という「注意報」が出たため、例年早めに田植えを行うほとんどの農家が、今年は種蒔きを遅らせ、田植えも遅めに始めたという事情です。
さて、学校や園が休みになる土日は、孫たちは「お手伝いする。お手伝いする」と言って、田圃に来て泥んこになっています。
孫たちは、田植機に乗りたがるのですが、孫が同乗するとハンドルをとられ植え付けが蛇行して、乗った場所は秋の収穫までその痕跡が残ります。
今年も除草の助っ人にカモ君の応援を予定しているため、山形のカモの育雛場と打ち合わせましたところ、カモの卵が不足気味で苦労しているが、何とかお届けするとのこと。原因は、今年の春は気温が低い日が多いからとのこと。
田植えを終えるとすぐに除草機を掛け、カモの受入準備のネット張りや餌場作りなど当分忙しい日が続きます。
エルニーニョとエシカルコンシューマー
丁度20年前の1993年夏、冷夏に見舞われ米の記録的な凶作が発生。
東京では25℃以上の夏日は1日だけ、東北、北海道では8月に毎日のようにヤマセが吹き梅雨明け宣言はなされず、稲はいつまでも穂を出そうとしませんでした。
青森の太平洋側では稲が稔らない「不稔」(フネン)によって作況指数0から20という大凶作。
スーパーなどの棚から米は消え、小売価格は数倍にも値上がりし、品不足と、高騰によって、消費者が我がちにと買い込む、生産者は売り惜しむため、更に、不足と値上がりに拍車が掛かり、米パニックが発生。
政府役人は世界中に米を求めて走り回りました。
翌年にかけて300万トンの緊急輸入をしましたが、日本人好みのお米はなく、また当時の中国産米は腐敗や石や泥など異物混入やカビでほとんど売り物になりませんでした。(結局食糧に使えず、数年後に豚の餌などとして処分)
この異常気象の原因は、日本から遠く離れた太平洋赤道域の日付け変更線から南米ペルー沿岸への広い海域の海面水温が高くなるエルニーニョ現象によると言われています。
そのエルニーニョ、今年は日本に一番影響を及ぼす恐れがあるという情報が出されていますが、気象予報のことですので心配するほどのことにならない可能性もあります。
ところで、この20年前のエルニーニョによる冷夏の年、私たちの地域では冷害の直接被害はほとんど無く、平均的には3割減収程度の軽い減収で済みました。
これは、オホーツク高気圧から吹く冷風の「ヤマセ」は、太平洋側は福島県沿岸部まで影響するが、秋田以南の日本海側は奥羽山脈でヤマセが遮られ助かるのです。
しかし、極冷のヤマセは防げて「不稔」はなくても、連日の低温と日照不足によって「いもち病」が激発しました。一般栽培では農薬を大量に撒布して防ぎましたが、農薬を使わない私たちの有機栽培米は大減収の被害を受けました。
我が農舎は、この頃すでに「提携米」として消費者の方に直送していたので、今何をするべきかを熟慮して、次の3つの対策で安定供給に取り組みました。
①新規受付は全面中止。その都度注文の方には前年の50%の供給。
②定期購入の方には、価格も数量もご予約通り翌年収穫時期まで確実にお届け。
③米の価格はいずれの場合も一切値上げせず据え置き。
この頃、農薬を使うなど一般栽培の「あきたこまち」は、私たちの地域の農家庭先価格は、小売価格の高騰までにはならなかったものの、1俵2万円から2万3千円前後でしたが、3万円から4万円にまで異常な値上がりをしました。
我が農舎のこの方針を聞いた近隣の生産者は「そうか苦しいが自分も値上げせず頑張ろうか」と言ってくれる方はほとんどいないばかりか「農業は儲からないのだから、この値上げできる好機を生かさないのは理解できない」など、我が農舎の対応を馬鹿扱いする農家がほとんどでした。
美味しく、農薬など出来るだけ使わない安心できるお米を、安定供給するという生産者としての責務をまったく持とうとしない生産者の多いこの現実に、驚きと悲しみを覚えたものです。
最近、エシカル(ethical)ファッションやエシカルコンシューマーと呼ぶ、やみくもに安価の物を求める消費行動を慎み、道徳規範を大事にした消費行動をすることで「自分の心も、社会も共に豊かにしよう」という運動がおこっています。
特に、食や環境の安全を追求する食糧生産の持続は、生産者の力だけでは達成出来ません。
エシカルな生産者が育てた価値のある食糧を、エシカルな消費者が選択して食べて下さることによって再生産がはじめて可能であり、繰り返せるのです。
今年のお米作りはエルニーニョによる冷夏、冷害の恐れがありますが、これを乗り切れるよう管理に努めたいと思っています。どうぞご支援をお願いします。