14年4月/新農薬の出現
いよいよ今年のお米作りが始まります。 【 PDF版 】
東京では今年の冬は、40年ぶりの積雪を記録したようですが、雪の本場の私たちの地域は、珍しく雪の少ないままで春を迎えました。
我が家は、冬の間も毎日お米の精米や出荷作業で倉庫へ通いますが、一冬で50回以上、毎回2時間以上かけて、除雪する年が多いですが、今年の除雪は僅か2回だけ。
その除雪も、除雪するほどの積雪でもないが、せっかく中古の除雪機を手に入れ苦労して完全整備したのだから・・・と、30分ほど動かしただけでした。
ところで、毎日通っている倉庫団地の近辺は、冬の期間ほとんど人影を見かけません。しかし、3月も下旬に入ると、まるで「お祭り」のように急に人や車が増えます。
早い人は4月10日頃には種蒔きを始めるので、種籾の選別や消毒、苗箱に使う床土作りなど種蒔き準備に取り掛かるためです。
この時期は、学校の春休みに当たるので子供たちの賑やかな声も聞こえて倉庫一帯は活気に溢れます。
種蒔き準備のこの時期は、田植えが終わった時、稲刈りを始めた時の2つの時期と共に、心が一番晴れやかになり、一番好きな歳時記のような時期です。
上の写真は、我が農舎の倉庫で活躍している猫チャンの紹介です。
「俵の鼠が米喰って・・・」の唄のように我が倉庫でも鼠には長年困っていました。
鼠取り器や粘着紙を並べるなど頑張ってみましたが200坪もある倉庫では鼠の害を防げません。
自前では無理だと、鼠駆除の専門業者に十数年にわたって総額百万円を超える料金を払いましたが満足した結果は得られません。
一昨年から猫チャンに切り替えました。すごい威力です。
猫を飼った直後の鼠を捕らない間でも専門業者の駆除よりも効果的。今では鼠をほぼ完遂できました。2匹の猫に日々感謝です。
新農薬の出現で北半球のハチの1/4死滅。
いま世界中でミツバチの死滅・減少が大問題となっています。
ミツバチの減少の最大の原因は「ネオニコチノイド」系の農薬です。この農薬は20年余り前にデビューして世界中で使用されるようになりました。
日本でも、種々の野菜、果樹、お茶、水稲、森林、また生活の場などでシロアリやダニ駆除のため年間400トン(成分量換算で・・製品量では2万トン余)使われています。
この農薬は、害虫の神経伝達を麻痺させて駆除する作用があり、人間の神経系も侵します。
特に、ミツバチや赤トンボを殺したり、帰巣神経の混乱や繁殖障害が激しいとされ、欧米では使用制限の強化が始まっています。
このネオニコ系農薬は、イチゴ、メロン、キャベツ、スイートコーンなど種々の野菜の植え穴に数粒を撒くと、アブラムシやアオムシ、ダニなどが収穫するまで駆除できる利便性があり、その効能から収穫物にも残留し人の神経もかく乱する恐れがあります。
また、花粉の蜜や葉っぱの水滴にミツバチが触れることで被害が出ていると言われています。
先日私たちの村で、このネオニコ系農薬問題の学習会が行われました。
水稲でも、種蒔きの時に苗箱の床土に粒剤を混ぜればイネミズゾウムシなど生育初期の害虫は完全に防ぐことが出来ます。
しかし、その苗を植えた田圃ではトンボやアマガエルなど有用生物も全滅し、天敵がいなくなったことで、生育後期のイネカメムシの大量発生を促進します。
このためイネカメムシへも再び農薬が使われるという悪循環が起こっています。
イネカメムシは消費者の方に判るのは、米粒に黒いゴマ粒が付く「斑点米」です。
この斑点米が混ざっていても特別味が落ちたり、収穫量が減るなど誰にも実害はありませんが、一般流通のお米に使う場合には、検査基準の2粒ルール(1000粒の中で2粒あれば1等米に不合格)によって値段が下がります。
そこで、農家は稲の穂が出る時期に、再びこのネオニコ農薬を撒くことが増えました。
その上、最近は高齢化と人手不足でラジコンヘリや有人ヘリで高濃度の原液を広範囲に撒布する地域が増え、ミツバチの大量被害が北海道など各地で問題化しています。
意味のない米の検査基準が、農薬の多量使用を促進しているのです。
ところで、最近我が村でも、ネオニコに限らず農薬の使用が増える傾向が顕著です。
この原因や経過をご紹介します。
農薬などへの問題意識が低かった農協系農家でも15年余り前頃から生協などへのお米の出荷が始まったことで「安全な米作り」の指向が強まり農薬を抑える生産姿勢の農家が増えるという好ましい現象が出てきました。
しかし、リーマンショックからの景気低迷にあわせて、農薬を減らすなど安心できるが価格の高いお米の販売が、特に大規模生協中心にこの数年急減してきました。
これに連動して、主に大規模生協に出荷していた我が村の農協系の農家の無農薬米栽培面積は、前年対比40%減と恐ろしいまでに激減しました。
良い悪いはさておき「苦労して農薬を減らしても、消費者が評価してくれなくて売れないなら、価格が安い一般流通米を作って一粒でも多く収穫するしかない。」という農家心理が働いて農薬の多用に繋がった。というのが残念ながら実態です。
このように、ミツバチを守ることは農薬を使用する農家だけに任せても限界があるということが、悲しくとも現実です。
消費者の皆さんが、自分や家族の健康のために食材選びに気を付けることはとても大事なことです。
しかし同時に、自分や家族だけでなく、日常生活の中で自然環境など社会関心を持って食材選びを行って頂くことが、生産現場を勇気づけるなど大きな力に繋がります。
ご紹介した「無農薬米の販売不振が農薬多用を発生させた。」というこの事例は、地球や人々の健康を守るには、生産者の力だけでは無理である。消費者の皆さんのご理解や協力が不可欠だ。ということを教えてくれた出来事です。
いずれにしても、病害虫農薬を一切使わないお米作りが続けられている我が農舎は、消費者の皆さんの日頃からのご支援のお陰だとあらためて感謝しているところです。