田んぼに米を作らせない生産調整(減反)のための政策は、現在「経営所得安定対策」と呼ばれています。
昔のように減反がペナルティを伴う制度(そもそも法的根拠は無いんだけど)であった時代と異なり、現在は生産調整に参加するのは自由です。
生産調整に参加すると、転作した部分への補助金の他、お米を作っている部分へ面積あたりの直接支払交付金(補助金)や、米価が下落した際の収入減少影響緩和対策(ナラシ)があります。
一方、生産調整に参加しないと、それらの補助金は一切受けられません。
つまり、補助金に頼らずに農業をしたい場合は「経営所得安定対策」参加しなければいいだけなのですが、しかし「経営所得安定対策」に参加しない農家にとって、この「経営所得安定対策」政策は非常に厄介で、且つ結果的に「経営所得安定対策」に参加せざるを得なくなる制度なのです。
図は、一般的な商品と同じく自由な市場経済の中で決定される米価です。
市場原理に基づけば需要と供給で価格が決まります。
生産量(供給)が消費量(需要)より多ければ、価格は下がり、結果としてその価格では利益が出ない生産者は生産を辞めます。逆に、生産量が減って価格が上がれば/上がりそうなら米を生産をする農家(面積/生産量)が増えます。
過渡期などで一時的には大きな価格変動はありますが、徐々に需要と供給のバランスが取られて極端な価格高騰や暴落は起きなくなります。
一方、図の下が現在の米の価格が決まるプロセスです。
米価自体は昔と異なり政府が決めるのではなく、市場で決定されます。政府が買い取るのではなく市場が決めると言うと、すごく民主的?(資本主義的?)に感じるかもしれません。
ただ、現実には、今のような米が余っている(供給過剰)の状態で米価が下がっても、米価の下がった分のほとんどが補助金で補填されます。
従って、米価がどんどん下がっても、実際の(制度に参加する)生産者の手取りは大きく下がらないため米の生産を辞めません。
そのため、農家は米を作り続け、米は余り続け、米価は下落し続けます。
その結果、政策に参加しない少数派の農家は、補助金が無く米価のみが収入となるので、政策で歪められた市場価格に苦しめられます。
つまり、補助金に頼らずに頑張ろうとしても補助金によって歪められた市場価格により経営が成り立たなくなり、補助金に頼らざるを得なくなるのです。
以上が、「経営所得安定対策」の問題点だと思っています。
自由参加となっていますが、結果的に市場原理を歪めて、参加せざるを得ない状況にさせるような政策はおかしいんじゃないでしょうか。
※「市場価格を歪める米価下落の補填をするナラシ対策さえがなければいいのか?」と言われると、それだけではないのですが、そこあたりはそのうちまとまれば書きたいと思います。
ちなみに我が家は「経営所得安定対策」には参加していませんが、別に今回の記事は来年から参加するための言い訳のために書いた文章ではありませんのでお間違いなく(笑)。
「厳しい状況ですが、もう少し補助金に頼らない自立した経営ができるように頑張ってみようと思います。だから我が家のお米を買ってください」と言うための文章です(笑)。
(黒瀬 友基)